ポップミュージックの世界では、曲の長さはたいてい 3 分前後、長くても 5 分くらいです。紅白歌合戦で長いからと短縮を求められて断ったという美輪明宏の「ヨイトマケの唄」ですら、約 6 分です。そんななか、非常にまれですが、10 分を超える長い曲を発表しているアーティストたちが存在します。
長い曲はテレビやラジオでかけづらく、大衆受けしにくいため、ふつうは敬遠されがちです。レコード会社も反対するでしょう。しかしそれでも 10 分を超える曲を発表するということは、アーティストがその音楽に対してそれだけ強いこだわりや思い入れがある証拠でもある、と私は思います。
振り返ってみると、私が知っている 10分を超える曲は数えるほどしかありませんが、どれも名曲ばかりです。商業的に大成功した曲ではなくても、そのアーティストを代表するといっても差し支えないくらい、ファンにとっては根強い人気のある曲になっていたりします。
そこでこの記事では、邦楽・洋楽問わず、10 分を超える名曲を 10 個、短い順に紹介していきたいと思います。ちなみに私は邦楽より洋楽を聴くことのほうが多いのですが、10 曲中 4 曲は日本の曲です。
1. David Bowie(デヴィッド・ボウイ)「Station to Station」(ステイション・トゥ・ステイション)
まず紹介するのは、世界的なアーティストであるデヴィッド・ボウイによる、1976年発表、10分15秒の楽曲です。
アルバム『Station to Station』の 1 曲目にあるこの表題曲は、どこかで見た「10分間の最高の過ごし方」というコメントが私には非常にしっくり来ます。不穏な音から始まり、張り詰めた空気感のなか最高のタイミングで音が重なり合って進行するこの曲は、何度聞いても飽きさせず、10分という時間がまったく長く感じられません。
代表作とされる「ジギー・スターダスト」やベルリン三部作と比べるとマイナーなアルバムですが、本当に素晴らしい作品の一つです。ドラッグの影響が指摘される時期のアルバムではあるものの、ものすごい集中力と才能によってつくられた曲であることは聴けば明らかであり、歌詞にあるとおり、コカインの副作用ではありません。
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2. 電気グルーヴ「虹」
次に紹介するのは、日本のテクノを代表する電気グルーヴの曲です。
1994年にリリースされた『DRAGON』というアルバムの最後に収録されている曲で、10分53秒あります(短いバージョンもあります)。
YouTube: Denki Groove – Niji (Original Album Version)
この曲はシングルカットされたものの日本ではあまり売れず、むしろ海外で多数のリミックスが作成されて世界的に注目された楽曲です。日本では「モノノケダンス」や「Shangri-La」、「N.O.」のような曲がウケるのも仕方なく、これらも私は大好きですが、「虹」はアーティスティックな側面が最も感じられる名曲です。何度聞いても心地よく、温かく心に響く名曲です。
ちなみに私が電気グルーヴを知ったのは、漫☆画太郎先生の漫画『珍遊記』です。「ピエール瀧の体操」シリーズの動画も好きです。
3. Bob Dylan(ボブ・ディラン)「Desolation Row」(廃墟の街)
ボブ・ディランの名曲といえば「Like a Rolling Stone」ですが、この曲を含む名盤として名高い『追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)』の最後には 11分21秒の名曲「Desolation Row」(廃墟の街)も収録されており、これもまた人気の高い楽曲の一つです。
1965年にリリースされたこの曲は、最も長いポピュラー音楽トラックの一つです。
歌詞では実在する有名人や聖書・フィクション上のさまざまな人物が登場して独特の世界観が表現されており、流石ノーベル文学賞を受賞しただけのことはあります。
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4. Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)「Sing About Me, I’m Dying Of Thirst」
HIPHOP で 10分を超える曲というのは珍しい気がします(スキットを含めて12分3秒)。
この曲はケンドリック・ラマーの評価を高めた名盤『グッド・キッド、マッド・シティー』の後半に収められている曲で、ケンドリックの数ある名曲の中で最も人気の高い曲の一つです。
前半と後半でガラッと曲調が変わる展開、ビート、深いストーリーと言葉の力。
どれをとっても完璧で、人生を変える力を持つ名曲です。
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5. Black Country, New Road「Basketball Shoes」
近年、大絶賛を受けている英国のロック・バンド、ブラック・カントリー, ニュー・ロード。
ヴァイオリンや、サックス、フルートを演奏するメンバーがいて、一見シンプルに見えて味わい深い楽曲を発表しています。
2022年にリリースされた彼らのセカンドアルバムの最後の曲が 12分37秒もあるのですが、これが本当に素晴らしく、バンドを代表する楽曲となっています。
このバンドのことは同アルバムの「Concorde」(YouTube)を聴いてからハマり、2枚組アルバムを購入したのですが、素晴らしい曲が多く、将来にわたって聴かれ続ける名盤になることは間違いないと思っています。
6. ボアダムス「◯」
ボアダムス(Boredoms)は日本での知名度は高くありませんが、Wikipedia の説明などを読めばわかるとおり、世界的な評価が非常に高い日本のバンドです。中でも評価の高い 1999 年リリースの名盤『Vision Creation Newsun』の 1 曲目が、この丸記号(〇)で表現された 13分42秒の楽曲です。
YouTube: Boredoms – ◌ (Circle)
どんな音楽通でも、爆音でこの曲を聴けば「人生で最も狂った音楽体験」になるであろう、オリジナリティーあふれる名曲です。
どうやって出しているのかわからない、不思議と感情を揺さぶられる音、トライバルなドラムなど、とてつもないエネルギーを感じさせられ、圧倒されます。なんといっていいのかわかりませんが、とにかく凄く、まさに「Vision Creation Newsun」です。
このバンドの独自性は、1992年のナイナイの「史上最悪最強のバンド計画」という企画の動画(YouTubeで探せば見つかるかも)をみると何となくわかるかもしれません。常人とは発想が違います。
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7. ゆらゆら帝国「ミーのカー」
日本で音楽通に人気の高いオルタナティブ・ロックバンド、ゆらゆら帝国のアルバム『ミーのカー』(1999年)のラストに収録されている、25分35秒もある表題曲です。
アルバムの表題曲になっているくらいの曲なのに、当時の私には長すぎて、あまりきちんと聴いていませんでした…
それだけ前半の楽曲(「ズックにロック」など)も素晴らしいということですが、何年か経ってベスト・アルバムでショート・バージョンの「ミーのカー」を聴いたとき、やはり名曲であることに気づかされました。やがてショート・バージョンでは物足りなくなり、ロング・バージョンに戻ってきたところです。
気だるく、ちょっと不気味な感じのシンプルな楽曲ですが、ときどき無性に聴きたくなります。時間を気にせず聴けるときにどうぞ。
ちなみにこの曲は、Amazon Music で1曲だけダウンロード購入することができ、長さの割にはお得です(アルバムごと購入するほうがお勧め)。
8. スフィアン・スティーヴンス「Impossible Soul」
スフィアン・スティーヴンスは、インディー・レーベルのためか知名度は高くないものの、批評家から絶賛される米国のシンガーソングライターです。彼のアルバム『Age Of Adz』(2010)の最後に収録されている曲「Impossible Soul」もまた、「ミーのカー」と同じ(!) 25分35秒の名曲です。
スフィアン・スティーヴンスはアルバムごとにガラッとサウンドが変わりますが、エレクトロニカ寄りのこの作品も聴かせます。
私はこのアルバムは持っていなかったのですが、この曲はすごく気に入ったので、Amazon Music で1曲だけダウンロード購入しました。250 円でしたが、長さを考えるとお得感があります(購入時の価格なので変更される可能性があります)。
9. ピンク・フロイド「Shine On You Crazy Diamond」(邦題:クレイジー・ダイヤモンド)
次に紹介する長い名曲は、ピンク・フロイド(Pink Floyd)の名盤『Wish You Were Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい~)』に収録されている名曲「Shine On You Crazy Diamond」です。これはオールタイム・オールジャンルの名盤ランキングでも 8 位にランクインしている名盤中の名盤で、1973年の名盤『狂気(Dark Side of the Moon)』に続いて 1975 年にリリースされた作品です。
アルバムでは 1 曲目の第1部(Parts I-V)と、5 曲目(ラスト)の第2部(Parts VI-IV)に分割されていますが、いずれも 10 分を超えていて、合わせると 25分57秒となります。歌い出しまでに8分43秒ほどかかっていて、インストゥルメンタルかと思ってしまいます。
この曲名にある「クレイジー・ダイヤモンド」は、初期のピンク・フロイドを率いていたシド・バレット(天才)と深い関係にあることが知られていますが、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するスタンド名の元ネタとしても有名です。
10. フィッシュマンズ「LONG SEASON」
最後に紹介するのは、1 曲でアルバム 1 枚、35分16秒という 1996 年の日本のバンドによる曲です。便宜上 5 つのトラックに分けられていますが、1 曲です。
アメリカの「Rate Your Music」というサイトで日本の音楽アルバムとして史上最高の評価を受けている名曲で、日本でこんなドリーミーで浮遊感のある完成された音楽が生まれていたことに驚かされます。このアルバムを購入するなら、高音質な SHM-CDバージョンの『LONG SEASON(SHM-CD)』がお勧めです。
「Rate Your Music」では、フィッシュマンズのラスト・ライブアルバム『98.12.28男達の別れ』の評価がより高く、日本のみならず世界で史上最高のライブ・アルバムとして評価されているほどです。このライブアルバムにも「LONG SEASON」のライブ・バージョンが収録されていて、1 トラックで 41分31秒ありますが、より削ぎ落されたアレンジで演奏は完璧であり、甲乙つけがたい素晴らしさです。
長いですが、一音一音しっかり聴いても新しい発見があるし、流して聴くこともできる名盤です。
なお、流石にこの曲は、1 曲だけを安くダウンロード購入することができません。仕方ないですね。
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