現在最も注目すべきアーティスト「ケンドリック・ラマー」について、海外サイトで音楽誌やリスナーにより名盤として挙げられたポイントが最も高かったアルバムの 4 作品をご紹介します(ランキングの詳細はこちら)。ヒップホップ・ファンならずとも聴いて損はないと思います。
アメリカのラッパー、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)は、過去 5 年間に発表されたすべてのアルバムのうち 1 位と 2 位の名盤を出しているという、現代で最も注目すべきアーティストです(Best Ever Albumsの2012-2017のポイントより)。2016 年のグラミー賞で史上二番目に多い 11 部門にノミネートされるなど、すでに注目を浴びているアーティストですが、日本ではエミネムほどの知名度はありません。しかし、「ラップ/ヒップホップ史上最高の名盤ランキング TOP 10」で紹介したように、エミネムを超える、ヒップホップ史上でも最高レベルの名盤を次々と発表しています。このラッパーのすごいところは、ヒップホップ/ラップ・ミュージックどころか音楽の枠を超えた影響力を持っていることです。このことは、2016 年に TIME 誌で「世界で最も影響力のある100人のリスト」に選ばれていることや、オバマ元大統領に支持されていることからもわかります。
ヒップホップというと悪そうなイメージがありますが、ケンドリックは貧しい暴力がうずまく環境で育ちながらも善良な市民として生きようと葛藤しており、その姿勢が大きな共感と支持を生んでいます。インタビューなどを読むと、若いときから地に足がついていて思慮深く、自分の立場を常にわきまえていることが感じられます。人に頼らず自分の力で這い上がろうという意志も強く、行動にも表れているので、多くのトップ・アーティストにも一目置かれる存在となっています。
もちろん、音楽としても素晴らしく、ジャズやファンクを含む洗練されたサウンドに絶妙なラップを載せてメッセージを届けています。ヒップホップ界の先人をリスペクトして研究することで多くの手法を採り入れており、常により良い音楽を作ろうと真摯に向き合っていることが感じられます。また、リリック(歌詞)はいかに心に響くかを考え抜かれたものであり、個人的にはボブ・ディランのようにノーベル文学賞をとってもおかしくないものだと思います。
日本人としては、ドラッグや暴力がまん延するアメリカの貧窮地域の日常や人種の問題にはなじみにくいところがありますが、その根底にある心の葛藤や、世界をより良いものにしようという強い決意などは言葉がわからなくても感じることができます。楽しいパーティー・ミュージックではなく、暗い内容が多いのですが、ドライブ中に聴いて栄えることも考えられており、難しいことは考えずに音を楽しむこともできます。
2017年現在で、ケンドリックは『DAMN.』まで計 4 枚のオリジナル・アルバムを発表しています。以下にこれまでの作品のランキングを紹介しますが、どれも高い評価を受けており、今後の活動にも期待できます。ケンドリックのアルバムは全体を通して壮大なストーリーやメッセージがあるので曲単位で判断してほしくはないのですが、曲も 1 つずつ紹介したいと思います。
4位:『Section.80』
2011年にインディーズで発表されたアルバムです。以降のアルバムよりも自由に好きな音楽を作っている印象ですが、すでに高いスキルを持っていて、ただ者ではないことがわかります。多くのトップ・アーティストやプロデューサーらとつながったのも、この作品がきっかけとなっているのでしょう。
J.Coleがプロデュースしデビュー・シングルとなった次の「HiiiPOWER」という曲は、ケンドリックの魅力が詰まっている名曲だと思います。
3位:『DAMN.』
2017 年に発表された 4 作目。2017 年のベスト アルバムにふさわしい名盤です。2018 年にはピューリッツァー賞を受賞しました。
これだけ売れて名声を得ると、浮かれたりネタ切れやスランプなどが起きそうなものですが、次の曲でもわかるように HIPHOP への真摯な姿勢はまったく揺るいでいません。
2位:『Good Kid, M.A.A.D City(グッド・キッド、マッド・シティー)』
2012年発表のメジャー・ファースト・アルバム。オールタイムの名盤ランキングで 71 位と、『To Pimp A Butterfly』と同等の高評価を得ています。実質ファーストにしてあまりに完成度が高いため、これを聴いたエミネムはゴースト・ライターの存在を疑ったそうです。シリアスな内容で一聴してハマるようなわかりやすさはないと思いますが、歌詞を見ながらその世界が見えてくると、このアルバムの奥深さがわかると思います。人生にとって重要なメッセージがたくさん詰まっています。
シリアスな曲が多いのですが、次のように耳障りの良い名曲もあります。
1位:『To Pimp A Butterfly(トゥ・ピンプ・ア・バタフライ)』
2015年発表のメジャー 2 作目です。グラミー賞で史上2番目に多い11部門にノミネートされるなど、前作を超える高い評価を受けていて、オールタイムの名盤ランキングでも 65 位に位置しています。前作だけでも十分歴史に残るのに、さらに上を目指していたとは驚きです。共同制作者たちが豪華で多彩なサウンドも素晴らしいのですが、アルバム全体を通したメッセージにも相変わらず重みがあります。粒ぞろいの名曲が詰まっている濃密な一枚です。最初に聴く一枚としては一番おすすめです。
力強いビートの名曲です。
ケンドリックの軌跡や作品の背景を知るには、書籍もお勧めです。